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【書評】男ともだち 千早 茜

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関係のさめてきた恋人と同棲しながら、遊び人の医者と時々逢いびき。仕事は順調、でも何かが足りない――29歳、京都在住のイラストレーター神名葵。

彼女の日常に七年ぶりに舞い戻ってきた、大学時代の先輩ハセオ。互いに恋人がいても、なぜかいつも一緒にいた相手。理解しあう必要もないほどしっくりくる、男ともだち。

男ともだちは恋人じゃない。彼らには親密に付きあっている女たちがいるだろう。でもひょっとすると、男ともだちは女にとって、恋人よりずっとずっと大切な相手なのではないか。いつまでも変わらずに、ふとした拍子に現れては予想もつかない形で助けてくれる――。
29歳、そして30歳。
仕事と男と友情の、熱くてほろ苦い日常を描いた傑作長編小説。
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何も言わずにそっとこの本を手渡したい人がいる。何人かいる。
僕は異性の友達(僕の場合「女ともだち」)に対して
あっぴろげに恋人の話を広げて、価値観をぶつけあい、性の癖をばらしていく行為を多分にする。
同性のともだちとも似たような話をするのだが、女ともだちとのそれとは何かが違う。
 
僕にとっての女ともだちが、手を握ることも、一緒に寝ることも特に厭わない関係だからなのかもしれない。
ただしそこに恋愛感情は介さないし、キスもなければしセックスもない。
ただゆったりと肌に触れ合える関係が心地良いのだ。
同じ友達でも、「男ともだち」と「女ともだち」で求めるものは異なる。
端から見たら恋人と勘違いされるある種の危険な距離感こそ、僕の中での女ともだちであって、
それこそが本書に登場する神名とハセオの関係なのかもしれない。
 
セフレでも恋人でもない。
体の関係は無いし、恋愛感情もない。
友情は…微妙なところだが、どこか違う気もする。
「大切に思う」という気持ちこそ沸き上がってくるものの、いかんとも形容しがたい。
この感情というか関係に当てはまる名前があれば命名したいところだが
いまのところ「女ともだち」という言葉がしっくりくる。
だからこそ、本書の題名も「男ともだち」なのではないだろうか。
命名するのは簡単だが、共感は得にくい。
 
手を握ることも一緒に寝る事も厭わない。
心と体は切り離せないから、そばにいてくれると、とてもやすらぐ。
こういった僕の考えが特異なことだと承知しているし、
なかなか周囲に理解してもらえないのも仕様がない。
同様に、神名もハセオとの関係を周囲に訝しむように見られていた。

本当に大切な人だからこそ、セックスをしないという考えが僕の中にはある。
本当に大切な人、好きでたまらない人とはセックスをしたいとはあまり考えない。
 
別に性欲が無いわけではない。
むしろ人並み以上にあるかもしれない。
ただし、むらむらとわき上がるセックスへの衝動は恋人にも女ともだちに対しても起きず、
それ以外の女性に対して湧き上がる。
 
ハセオもそんな気持ちをどこかに持っていたのかもしれない。
神名とはセックスをせず、恋人を作らず、不特定多数の女性と関係を持つ。
 
僕は女ともだちになり得る人と出会うと、いつも同じ感情を覚える。
この人とはともだちになっていくのだろう。
これからお互いの家に泊まることもあるだろうし、一緒に寝ることだってある。
けれども、恋人にはならないし、セックスだってしない。
恋人にしたくないわけでもないし、性的な魅力がないわけでもない。
 
女ともだちとのセックスを想像しないわけではないが、ムラムラと興奮する類のものではない。
この人としたらどんな感じなのだろうな、という意味での想像だ。
いつも前を通るあの店はどんな雰囲気なのだろう、くらいの感覚。
 
衝動が沸き起こらない。ただ、ゆったりと触れ合っているのが心地よい。
 
本書を読んでそんな自分の癖とでも言うべき感覚を改めて思い返した。
そして、自分の中での「女ともだち」の輪郭がさらにぼやけたような気がした。
神名とハセオのような関係は、周囲には理解されにくいし、説明も難しい。
「そんなもんなんだよ」と空気のようにあしらうしかないのかもしれない。
 
本書についての書評を調べていると、とある座談会の中に
これ以上ないぴったりの言葉が見つかったので、そちらで締めくくりたいと思う。
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あのふたりの関係を見ていると、
SEXをする男女の関係なんて色褪せて見えてしまう。
だって終わりが見えるし、すぐに変質していくし、
打算的な感じがする。
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基本的にフィクションです。
 


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