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【書評】バイバイ、ブラックバード (伊坂幸太郎)

あらすじ

星野一彦の最後の願いは何者かに<あのバス>で連れていかれる前に、
五人の恋人たちに別れを告げること。
そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」ー
これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美。
なんとも不思議な数週間を描く、おかしみに彩られた「グッド・バイ」ストーリー。
  
本書は「ゆうびん小説」という珍しい方法で発表された作品とのこと。
毎回抽選で選ばれた五十名の読者に、一話が書き上がり次第レター形式で
印刷された作品が郵便で送られるという、本邦初の試みだったらしい。
 
また、本作は太宰治の未完にして絶筆となった「グッド・バイ」へのオマージュ作品でもある。
「グッド・バイ」の基本設定である「何人もの女性と同時に付き合っていた男が、
その関係を清算するために、全く恋愛関係になかった女性の協力を得て、
一人ひとりを訪ねて歩く」というところはそのまま踏襲されている。

 

感想

僕は伊坂幸太郎の大ファンで、彼の著作はほとんどと言っていいほど
読んでいるのだが、本書はこれまでの作品と違う趣が楽しめた。
5股をかけた主人公(星野)が<あのバス>に連れ去られる前に
5人の女性に別れを告げてまわるストーリーを、1話完結型で
5回に分けて描いているのだが、これが、回を追うごとにどんどん面白くなっていくのだ。

巻末のインタビューで著者は自身の作品の面白さを、こう分析していた。

伊坂作品の、ちょっと変わったキャラクターがいてそれに振り回される人がいて、登場人物達のやりとりが楽しくて、いろんなところに張ってある伏線が少しずつ繋がっていき、要所要所で「ああ、そうなんだ」とはっとする感じ。

自身の作品をこれほどまでに客観的に見れているなんて!
世間が求める伊坂幸太郎作品を的確に知りつつ、
それを書くことに楽しみを覚える。まさに生粋の作家なのだな、と感心してしまった。

そして、その伊坂イズムというべき面白さは
本書にもいかんなく発揮されている。


繭美の破壊的なキャラクター(マツコデラックスを想像された人も多いのでは?)

は主人公の星野くんを振り回すし、
かと思えば純粋すぎるほどに素直な主人公の星野くんは様々な女性を(意図せず)振り回している。
星野くん(君付けで読んでしまいたくなるようなキャラなのだ)の人柄も、
回を追うごとにどんどん魅力的に映ってくる。
その素直さゆえに、ついつい5股の関係に陥ってしまったことも、致し方ないように思えてくる。
 
 
まとめ
これまでの著者の作品にはそれぞれ、分かりやすいテーマがあった。
しかし、この作品はどうだろう。上記の伊坂イズムは随所に見られつつも、
本質的なテーマがなかなか見当たらない。
けれど、存在しないわけではない。見つけにくいだけなのだ。

もしかしたら、ラストから、読者一人一人の物語が始まることが、テーマなのかもしれない。
この小説が(ゆうびん小説とあるとおり)文字通り読者への手紙なのだとしたら、
この小説を発端に、読者ひとりひとりの何らかの物語が始まっていく。
例えば、繭美が主人公を助け出す、という物語が読者ひとりひとりにあってもいい。
 
 
刺さった一文 

「別れたくないからね。別れても、別れないんだから」

石原さとみに言われたい!!

 
 


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