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人間みたいな神様...【書評】いちばんわかりやすい北欧神話 (杉原梨江子)

概要

古代の北ヨーロッパ・ゲルマン世界で育まれた神々の物語は、

アイスランドで『エッダ』『サガ』として豊かに保存され、

欧州各地の数々の文学作品の礎となった。

 

北欧神話と僕 

ロードオブザリングが一番有名だろうか。

北欧神話は数々の映画やゲーム、小説などの原点となっているので、常々、きちんと読んでみたいと思っていた。

 

北欧神話については以前に小難しい内容の本を買って読んでみたのだが、

僕の理解力ではいささか小難し過ぎたので数ページだけ読んだ後に寝かせてしまっていた。

 

そんな折にたまたま書店で見かけたのが本書。

題名通り「いちばんわかりやすい」と銘打っていたので、

れなら読解力の乏しい僕でもなんとか分かるだろうと思って手に取った次第である。

 

感想

非常に分かり易かった。

記憶力の乏しい僕のために同じエピソードを何度も織り交ぜて

全体を俯瞰して説明してくれたおかげで、

北欧神話の概要をなんとなくつかめたような気がする。

 

ご丁寧に神々の関係図まで挿れてくれているので、本当に分かり易い。

たまに散見される著者の意見が根拠に基づいた学術的主張なのか、

単なる主観なのか分かり兼ねる部分があったが、入門としての北欧神話や、

触りだけを学ぶのであればおすすめだ。

 

日頃慣れ親しんでいる曜日のいくつかは神々の名前から取られた名称とのこと。火曜日【Tuesday】は戦いの神テュールの日、水曜日【Wenessday】は主神オーディンの日、木曜日【Thursday】は雷神トールの日、金曜日【Friday】は愛と豊穣の女神フレイヤの日。

 

 

神話の中でのみ躍動する、遠い存在のはずの神々が、

こうして僕らの日常に根付いている事を思うと、実に神秘的な気分になる。

とたんにファンタジーが現実世界に紛れ込んできたような、

初めてプレイする大作RPGの画面に見入っている瞬間のような昂揚感が沸き起こる。

 

神々について

神と呼ばれ、崇拝や畏怖の対象となっているものの、

彼/彼女らの性格や行動は欲望に忠実で、いたって人間的である。

寝ている人の髪の毛をばっさりと切り落とすイタズラを仕掛けたり、

欲しいもののために好きでもない男と寝る事を厭わなかったり。

自分に忠実で、気持ちのいいほど本能のままに生きている。

 

神話ならではなのかもしれないが、

所々矛盾点があり、理解に苦しむ関係図もあった。

 

例えば、巨人とアース神族は仲が悪いのに、

巨人のロキはアース神族の主神オーディンと多くの行動をともにしている(ように見える)。

こういったものは神話を勉強して、

深堀を続けて行けばいずれきちんとした説明にたどり着くのかもしれない。

 

まとめ

北欧神話は最終戦争であるラグナロクへ向かって進んで行く。

神々と巨人との生死をかけた壮絶な戦いにより、

主要な神々はすべて滅んでしまう運命にあるのだ。

しかも神々はさまざまな前兆的な出来事や予言により、

自分たちの未来に死が訪れる事を知っている。

 

回避しようとしても抗えない運命がそこにはある。

悲劇的未来を受容する生き方が「滅びの美学」を貫く神話といわれる所以なのだろう。

 

アイスランドには、魔術として北欧神話の中で使われていた

ルーン文字」の一部が今も実際に使われているという。

 

魔術、神々、ラグナロク。滅びの運命にある物語には、

どこか刹那的な生き方を感じる。

北欧の人々は自然の厳しさとの戦いを、

神話に置き換えて今日まで残してきたのかもしれない。

 


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