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【書評】サラの柔らかな香車 (橋本長道)

感想
 
第24回小説すばる新人賞受賞作。
第23回受賞作の『国道沿いのファミレス』読了後にも思ったが、
朝井リョウの『桐島、部活やめるってよ』と同じ賞を受賞したレベルにある作品とは思えない。
 
天才、才能とは何か。壮大なテーマを求める姿勢は面白かったのだが、
著者なりの答えが腹落ちするまで描かれているようには思えなかったし、
その正体も、結局は才能を持たない者の視点からしか描かれていないように見えてしまった。
 
将棋というモチーフにふさわしい言葉遣いに襟を正そうとしていたが、
いかんせん文章力が著者自身の求める”格式の高さ”に追いついていなかったように見受けられた。
単語の選び方ひとつをとっても、正座に慣れていないようなぎこちなさが目に映える。
構成の試みや将棋界の描写等は面白かっただけに、勿体ないところでどうにも気になってしまった。
 
著者自身が奨励会に身を置いていた経験から、
将棋の説明や業界にいた人間にしか分からないような
独特の空気感のようなものを拾い上げて読者に伝えてくれた点は、非常に参考になった。
もちろん僕は将棋界に根ざしたことはないのだが、
恐らく関係者の方々は随所で「あるある」と感じていたのではないだろうか。
 
 
まとめ
個人的に面白かったのは、著者が将棋で培ったであろう論理的な思考が随所で散見されたところだ。
○○は○○をした→なぜ?→○○だから。→なぜそう思ったか?→○○のような体験があったから→なぜ…
といった具合に、登場人物の行動に裏に隠されている動機や理由を、
質問を先回りして答えるかのようにきちんと筋立てて書かれてあるところに、
著者の律儀な人間性のようなものが垣間見えて面白かった。
 
 
あらすじ
プロ棋士になる夢に破れた瀬尾は、毎日公園に一人でいる金髪碧眼の少女サラに出会う。言葉のやりとりが不自由な彼女に対し、瀬尾は将棋を教え込む。すると、彼女は盤上に映る”景色”を見る能力を開花させ—。
将棋に新たな風を送るサラ、将棋に人生を捧げてきたスター・塔子、数多の輝く才能を持つ七海の三人を巡り、激しくも豊かな勝負の世界を描く青春長編。