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青春小説の金字塔!【書評】横道世之介 (吉田修一)

概要(あらすじ)

大学進学のため長崎から上京した横路世之介18歳。愛すべき押しの弱さと隠された芯の強さで、様々な出会いと笑いを引き寄せる。友の結婚に出産、学園祭のサンバ行進、お嬢様との恋愛、カメラとの出会い・・・。誰の人生にも温かな光を灯す、青春小説の金字塔。

 

感想

構成の妙、人物造形の熟練、小気味好い会話。青春小説に欠かせない要素を高い次元で満たしている金字塔たる小説。

 

著者の他の作品を読んだことは無いが、世之介を視点にカメラを置いたシナリオライティングに近い進行方法は、恐らく普段とは違った文体なのだろうなと邪推した。映像を意識しているような情景の切り取り方に若干のわざとらしさを感じる一方で、視点を他の登場人物に置いた時の文章の語り口は滑らかで自然だった。

 

様々なシーンで、いよいよ盛り上りを見せるといった場面でストンと流れが切れて急に未来の話になり、その後、過去を振り返るように出来事を説明する手法が多用されていた。手法自体は嫌いではないのだが、毎回そのパターンが繰り返されてしまうと、少し興ざめというか、物語に「熱中する」に至らなかった。

ただし、構成はさすがというか、「ここで挿んでくるか」と意外な箇所で登場人物たちのその後の生活が描かれていて、ふとした隙間を突くように世之介の存在が顔を出す。一貫してぶれないのが、世之介と関わった人たちは全員、その当時のことを幸せに思っていること。最後は母親の家族愛を存分に感じられて、世之介の太陽のような魅力こそが作品を通して著者が伝えたかったことなのかな〜と思った。

  

まとめ

言ってしまうと、さして大きな出来事が起こる訳ではないし、息をのむような展開があるわけでもない。ぽかぽかと穏やかに世之介とその周りの人生がゆったりと流れて行く、そんな物語だ。そしてその平穏な流れこそが、世之介の魅力を存分に引き出している。

読んだ後にほっこりする、学生時代の長期休暇中に読みたくなる本!