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聴く能力を高める5つの方法

聴くという能力が失われている。


この主張には個人的に思い当たる節が多々ある。僕自身はもちろん、周囲の態度も含めて。
聴く — すなわち、受動的に漫然と聞くのではなく、積極的に意識して耳を傾ける。この態度、ひいては能力が失われているという主張は、多くの人々に共有される問題意識であるように思う。


そんなことを漠然と考えていた折に、たまたま見つけた『5 ways to listen better』と題されたTEDの動画が興味深かったので、内容を掻い摘んで紹介したい。


5 Ways to Listen Better

https://www.ted.com/talks/julian_treasure_5_ways_to_listen_better#t-34418

 

端的に要約すると、意識的に聴こうと耳を傾けるその姿勢によってこそ、物理的にも精神的にも様々な人やモノと深く繋がれるというのがこの動画のメインメッセージである。
聴き上手になるためにはどうすれば良いのか — 解となる方法論を求めて見始めた動画だったが、そんな小手先のテクニックではなく、まずは姿勢を正しましょうと、自省を促されたように感じた。


スピーカーのJulian Treasureは音を専門に研究する”Sound Consultant”。
彼のプレゼンは「聴くという能力が失われている」という主張から始まる。曰く、我々は会話の60%を聞くという行為に充てるのだが、実のところ頭に残るのは聞いたうちの25%しかないという。


Julianは聴く行為(Listening)を「音に意味を持たせる」と定義した上で、我々が普段、無意識におこなっているいくつかの心理的テクニックを紹介してくれた。
これらは情報を抽出するためのテクニックである。例えば雑多な喧騒の中でも自分の名前を呼ばれると思わず反応してしまったり、不協和音が聞こえると耳を背ける、など。
こういったテクニックは実際のところ我々が何に意識を向けているか教えてくれるという。そして、意識を向けているものに意識的になることは非常に重要で、意識こそが「聴く」行為にとって大事な「音」になる。


その聴く能力を我々は失っているという。なぜか。
一つの理由は、人類が記録する方法を発明したからであるとJulianは説く。ライティング、録音、録画。故に、正確に慎重に聴くという行為が消えてしまった、と。
また我々は日常的に、視覚的にも聴覚的にもあらゆるノイズに埋め尽くされているため、耳が疲れてしまっている面もあるらしい。


聴く能力が失われると、相手を本当の意味で理解しようとしなくなる。すると、世の中は平和からは程遠い世界になってしまうのではないか。
一方で、意識的に聴こうとすれば、話者と聞き手に深い理解が生まれる。理解が深まれば、つながりも当然深くなる。


聴く能力を高めるために、ここでは本題の5つの方法を抜粋する。これらを駆使すると意識的に聴く能力(以下、Conscious Listening)の質を高められるという。

 

  1. Silence (静寂)
    1日3分の静寂を設ける。
    これだけで耳はチューニングされ、リセットされる。完全な無音状態を作るのが難しければ、静かな環境でも構わない。

  2. Mixer (ミキサー)
    様々な音が混じり合う環境の中で、音を探してみる。
    例えばカフェの中。どのような音を探し出せるかトライしてみるのもいいだろう。単一の音源がいくつあるのか、聞き分けてみてほしい。
    湖でもいい — 鳴いている鳥を数えてみる。鳥はどこにいるか?湖のさざ波はどこでたっているのか?
    これはConsicous Listeningの質を高めてくれる効果的なエクササイズだ。

  3. Savoring (鑑賞)
    ありきたりな音を楽しむ。
    例えば乾燥機の音。注意深く聴けば、乾燥機の唸る音が一定のリズムを刻んでいることがわかる。Julianはこれを1, 2, 3のリズムと捉え、ワルツのようだと表現した。
    このように、身の回りにある音に意味を見出そうとしてみることがこのエクササイズの肝になる。隠れている聖歌隊を探すような行為なので、Julianは「Hidden Choir」と呼んでいた。

  4. Listening Position(聴く位置)
    視点(ポジション)を変えて話を聴く。
    聴き取る対象に合わせて一番適切な場所にポジションを移動させる。
    人が話を聞く時、無意識に様々なフィルターが働いている。文化、言語、価値観、信念、態度、期待、意図など様々だ。
    このフィルターを意識的に利用して、話を聞いてみようというのがこのエクササイズの趣旨だ。

  5. RASA
    最後は頭文字を取ったエクササイズで、コミュニケーションとリスニングに利用出来る。
    Receive:話者の話を注意深く聴くこと
    Appreciate:「うん」「わかった」と意思表明をすること
    Summarize:意思疎通において要約することは大切
    Ask:質問すること

聴く能力が失われるというのは、真剣な問題だとJulianは言う。先述の通り、Conscious Listeningは話し手と聞き手の深い理解につながるからだ。Conscious Listeningは相互理解を生む。相互理解なしでは、お互いがお互いに耳を貸さない、暴力的で恐ろしい世界になる危険がある。
反対に、Conscious Listeningの質を高めれば、相互理解から平和な世界になる可能性がある。
上記の5つのエクササイズはその世界をつくる手助けをしてくれるはずだし、個人的に広める価値があると思ったので、久しぶりにブログを書いてみた。