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【短編小説】目に見えない⑥(完)

 部屋に帰ると、リサがいた。そして、マユコもいた。珍しい来客に驚いていると、リサがにやついた顔で近づいてきた。部屋の入口に立つ僕の真正面に立ち、首に腕をまわしてくる。


「へぇ、浜野くん、そんな風に思っていたんだ?」


 鼻と鼻が触れるほどに顔を近づけるリサの言葉の意味が解らず、僕は呆然と立ち尽くす。キスでもされるのだろうか?マユコが見ているじゃないか、とハラハラする。

「マユコと私と、4Pしたかったんだ?」意味がわからなかったが、逡巡し、先ほどの小澤との会話を思い出す。『そりゃ、できることならしたかったよ』

「なぜそれを?」驚きを隠せなかった。なぜ、そのことを知っているのだ?

 リサは相変わらず腕を絡めたまま、挑発的な笑みを浮かべていた。

「浜野くんが私に盗聴器をしかけたこと、頭にきちゃってさ。仕返しに、私も浜野くんに、盗聴器をしかけたの」そういって、リサは僕のシャツの胸ポケットに指を突っ込み、小さな、銀色の筒状の盗聴器と思われる物体を取り出した。全く、気がつかなかった。
「今日、小澤くんと会っていたでしょ?私のこと、相談しちゃって。可愛いなぁ、って思ったの。盗聴器をしかけられたことはありえなかったけど、そこまで私のことを考えてくれているんだと思って、キュンときちゃった。だからね、ご褒美をあげようと思ったの。私、優しいでしょ?」

「ご褒美?」盗聴器を仕掛けられていたことへの驚きが冷めないなか、リサの意味不明な発言は、僕をさらに当惑させた。

「そう、ご褒美。だから、マユコを呼んだの。したいんでしょ、4P。あ、でも私、小澤くんのこと好きじゃないから、さすがに4人で、っていうのはできないけど。お返しの3Pならできるよ。ほら、混合ダブルスだよ」

「ダブルスは、3人じゃできない」

 リサは僕の反論を無視して、腕を引っ張ってベッドへと招き入れた。マユコは苦笑いをしている。きっと、リサに無理矢理付き合わされたのだろう。えーそんなつもりじゃなかったぁ、はずだ。

 音声でリサの浮気が発覚して、小澤は見えなければフェラ直後のキスは許されると主張し、都市伝説のアスパラおじさんの姿ははっきりと見えず、花火の煌めきも見ることができなかった。
 ―俺はこう見えても、目隠しをされるのが好きなんだよ―

 僕は珍しく、というよりも初めて、自分の意見をリサに主張した。

「いいけど、せめて、目隠しさせてくれ」
 リサは何も言わず、手を握ってくれた。