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読書感想文/マーケティング/広告/アメリカ市場など。基本的にフィクションです。

同窓会の後の話

年末年始について語ってみた。


やれやれ、僕は一日中パソコンと向き合っているのだが、
未だかつてなっとくのゆく文章と巡り会ったことがない。
もちろん、自ら紡ぎだす文章のことだ。
 

「ねえ、一体いつまでブログの更新をさぼるわけ?」
起き抜けに斉藤さんの声が頭の中で鳴った。
そうだ、いい加減そろそろ、ブログを再開しなければいけない。
斉藤さんはドラマの観月ありさのようにしつこく、僕をしかってくれる僕の中だけに生きる存在だ。

そんなわけで、年末の振り返りでもしようと思う。
振り返り。それ以上でもないし、それ以下でもない。

 

 

****************** 


12月29日は寒かった。年末とは、そういうものだ。

数人の同窓会参加者と大阪駅御堂筋口で待ち合わせのうえ、お店に向かった。
猥雑な商店街を抜け、飛び交う喧噪を抜け、早すぎる抜きの誘いを抜け、
お店に着くと、高校の同級生たちと数年ぶりの再会を果たした。

わずか数年ぶりの再会とあってはどこが変わったかを見抜く方が困難だった。
それはオフィスに整然と並べられた観葉植物のように変わり映えしない光景だった。
 
たいした感動も感慨もなく、感傷にひたることも安酒に酔うこともなく、
同窓会は無難に幕を閉じた。カーテンコールへの予定調和な拍手を思わせた。

会の終了後、僕はM君一派とともにM君の実家に向かった。
高校の同級生であるM君の家に泊めてもらう約束をしていた。


「めっちゃ寒ない?」

大きなスーツケースをガラガラと引きながらI君は僕とM君に言った。
I君も同じ高校の同級生だ。
3人で並んで歩く、京都の住宅街。
ここらは街灯も少なく、1ブロック先の道路が見えないくらい真っ暗に静まり返っていた。
濃霧注意報があるなら、濃闇注意報があってもいい。そう思わせる暗さだった。
 
誰もI君の質問に答えない。

「I君のスーツケース、うるさすぎひん?」

M君はI君の質問を無視して、別の質問を投げかけた。
たしかにI君のスーツケースのガラガラ音は、
シャコタン車から漏れるヒップホップのような騒音を辺りにばらまいていた。
道なりに建つ民家に石を投げつけるような、固い音だった。

「うん、タイヤのゴムが取れちゃってん」
と、I君はスーツケースを犬のように愛でながら言った。

M君もスーツケースを引いていたが、I君ほどにはうるさい音を立てていなかった。
スーツケースに優等生と劣等生があるのなら、M君のそれは優等生だ。

「謝って」
M君は冷たく言い放った。
「え、ごめん」
I君はスーツケースを我が子のように庇った。

二人とも職場は京都から遠く離れた場所にある。
今回は年末年始の帰省で京都に帰って来ていた。
家族水入らず、団欒のひととき。
そんな越年の中、図々しくもM君の家にお邪魔する身分とあっては立場を弁えなければいけない。
僕は何も言わず二人の会話を微笑ましく聞いていた。

「まだ着かないの?」
耐えきれず、僕は不満を漏らした。一駅分は歩いたはずだ。
東京に住んでいると、田舎の広さを億劫に感じる。

他愛もない会話も角を曲がる頃には愛おしくなり、
M君の家に到着したときには、次はいつ、こうして3人で集まれるのだろうかと寂しくなった。

「じゃあ、また。よいお年を」
とI君は僕とM君とは別の道を歩み、暗がりに消えていった。
 

「あっ」
M君は慌てていた。玄関のドアをあけようとしていたところだった。
「カギかかってるやん」舌打ちをするM君。時刻は深夜2時。
「そりゃ、こんな時間だからカギもかけるだろうよ」
「違うねん、俺、カギ持ってへんからあけといてって言ってあんねん」
「でも、カギはかかっている。それは事実として受け入れないと」
事実はそれ以上でもそれ以下でもない。

「やかましいわ」
M君はイライラしていた。何回チャイムを押しても誰も反応しないからだ。
電話もつながらない。

年の瀬。寒空の下、僕らは巨大な闇の中にぽつり、取り残される格好になった。
見方を変えれば、家からつまはじかれたように見えなくもない。
聳えるように並び建つ周りの住宅は、乾いたナプキンのように冷たい視線を投げかけていた。

「やばい」

僕は雪山で遭難したスノーボーダーを想った。
コース外を滑走し、行方不明となった2日後に救出されたスノーボーダー
彼らは暗闇の極寒の中、何を思い、何を考え、何を信じて生き長らえたのだろうか。
バックカントリーなんて滑らなければよかった?
そうだろう、全て自己責任の世界だ。
僕らの行動には全て、自らの責任が伴う。それが自由というものだ。

「I君に電話しよう」
I君の家は数ブロック離れた場所にある。I君の家に泊まればいい。

「ファック、つながらない」
「風呂に入ってるんちゃう?」と、M君。
「とりあえず行ってみよう」

I君の家は真っ暗だった。窓から光が洩れてこない。
「やばい」
出川哲朗もびっくりだ。

「あれ、あそこの小さい窓、お風呂場ちゃうん?」
M君が指差した先、玄関の隣の小窓にだけ、木漏れ日のような灯りがついていた。

I君は相変わらず電話に出ない。LINEも既読にならない。
「I君、お風呂場に入ってるんちゃうん?」
M君は門を勝手に開き、玄関脇の小道にずかずかと入り、
置物の植木鉢を壊し、網戸を壊し、もとい、取り外し、
小窓に腕を伸ばしてコンコンと叩いた。
 
キタキツネの鳴き声のように響くノック音。
吐く息は白かった。

誰も出てこない。
僕は内心ビクビクしていた。お風呂に入っているのがI君でなかったらどうしよう。
I君には2人のお姉さんがいる。もしお姉さんが出てきたらーー
最悪の事態を想像し、言い訳を考える。
「違うんです、これは、違うんです。覗きじゃないです」

I君であってほしいような、あってほしくないような。
心のどこかでお姉さんが出てくることを期待していたのかもしれない。

再三に渡る小窓ノックの末、ようやく窓が開かれた。
地球の自転が絡まったかのように、その瞬間はとてもゆっくりと過ぎた。
I君だった。
 
安堵と落胆が入り交じったため息が漏れる。

I君は特に驚きもせず、「ちょっと待ってや」と残し、
裸のまま玄関のドアを開けてくれた。

水滴だらけの裸体に寒気が襲いかかる。I君は寒さに声を震わせながら、
「泊まっていき」と迎え入れてくれた。
僕らはI君の優しさに甘えることにした。

I君は優しい。

わざわざ朝ご飯を用意してもらったにも関わらず、
「お茶がない」「卵焼きの味がない」「時間がない」と文句ばかり言う
僕とM君を春風のような柔らかい笑顔で見つめるだけだった。

その優しさゆえ、小学校のときに1人の女の子から熱烈なラブアタックを受けていたI君。
毎日下駄箱を開けるとオムツが入っていたとかいなかったとかの話もあるのだけれど、
長くなったのでこの辺で。