【書評】サラの柔らかな香車 (橋本長道)
プロ棋士になる夢に破れた瀬尾は、毎日公園に一人でいる金髪碧眼の少女サラに出会う。言葉のやりとりが不自由な彼女に対し、瀬尾は将棋を教え込む。すると、彼女は盤上に映る”景色”を見る能力を開花させ—。将棋に新たな風を送るサラ、将棋に人生を捧げてきたスター・塔子、数多の輝く才能を持つ七海の三人を巡り、激しくも豊かな勝負の世界を描く青春長編。
人間みたいな神様...【書評】いちばんわかりやすい北欧神話 (杉原梨江子)
概要
古代の北ヨーロッパ・ゲルマン世界で育まれた神々の物語は、
アイスランドで『エッダ』『サガ』として豊かに保存され、
欧州各地の数々の文学作品の礎となった。
北欧神話と僕
ロードオブザリングが一番有名だろうか。
北欧神話は数々の映画やゲーム、小説などの原点となっているので、常々、きちんと読んでみたいと思っていた。
北欧神話については以前に小難しい内容の本を買って読んでみたのだが、
僕の理解力ではいささか小難し過ぎたので数ページだけ読んだ後に寝かせてしまっていた。
そんな折にたまたま書店で見かけたのが本書。
題名通り「いちばんわかりやすい」と銘打っていたので、
それなら読解力の乏しい僕でもなんとか分かるだろうと思って手に取った次第である。
感想
非常に分かり易かった。
記憶力の乏しい僕のために同じエピソードを何度も織り交ぜて
全体を俯瞰して説明してくれたおかげで、
北欧神話の概要をなんとなくつかめたような気がする。
ご丁寧に神々の関係図まで挿れてくれているので、本当に分かり易い。
たまに散見される著者の意見が根拠に基づいた学術的主張なのか、
単なる主観なのか分かり兼ねる部分があったが、入門としての北欧神話や、
触りだけを学ぶのであればおすすめだ。
日頃慣れ親しんでいる曜日のいくつかは神々の名前から取られた名称とのこと。火曜日【Tuesday】は戦いの神テュールの日、水曜日【Wenessday】は主神オーディンの日、木曜日【Thursday】は雷神トールの日、金曜日【Friday】は愛と豊穣の女神フレイヤの日。
神話の中でのみ躍動する、遠い存在のはずの神々が、
こうして僕らの日常に根付いている事を思うと、実に神秘的な気分になる。
とたんにファンタジーが現実世界に紛れ込んできたような、
初めてプレイする大作RPGの画面に見入っている瞬間のような昂揚感が沸き起こる。
神々について
神と呼ばれ、崇拝や畏怖の対象となっているものの、
彼/彼女らの性格や行動は欲望に忠実で、いたって人間的である。
寝ている人の髪の毛をばっさりと切り落とすイタズラを仕掛けたり、
欲しいもののために好きでもない男と寝る事を厭わなかったり。
自分に忠実で、気持ちのいいほど本能のままに生きている。
神話ならではなのかもしれないが、
所々矛盾点があり、理解に苦しむ関係図もあった。
例えば、巨人とアース神族は仲が悪いのに、
巨人のロキはアース神族の主神オーディンと多くの行動をともにしている(ように見える)。
こういったものは神話を勉強して、
深堀を続けて行けばいずれきちんとした説明にたどり着くのかもしれない。
まとめ
神々と巨人との生死をかけた壮絶な戦いにより、
主要な神々はすべて滅んでしまう運命にあるのだ。
しかも神々はさまざまな前兆的な出来事や予言により、
自分たちの未来に死が訪れる事を知っている。
回避しようとしても抗えない運命がそこにはある。
悲劇的未来を受容する生き方が「滅びの美学」を貫く神話といわれる所以なのだろう。
「ルーン文字」の一部が今も実際に使われているという。
魔術、神々、ラグナロク。滅びの運命にある物語には、
どこか刹那的な生き方を感じる。
北欧の人々は自然の厳しさとの戦いを、
神話に置き換えて今日まで残してきたのかもしれない。
Amazon.co.jp: いちばんわかりやすい 北欧神話 (じっぴコンパクト新書): 杉原 梨江子: 本
【書評】バイバイ、ブラックバード (伊坂幸太郎)
あらすじ
星野一彦の最後の願いは何者かに<あのバス>で連れていかれる前に、五人の恋人たちに別れを告げること。そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」ーこれらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美。なんとも不思議な数週間を描く、おかしみに彩られた「グッド・バイ」ストーリー。
感想
僕は伊坂幸太郎の大ファンで、彼の著作はほとんどと言っていいほど
読んでいるのだが、本書はこれまでの作品と違う趣が楽しめた。
5股をかけた主人公(星野)が<あのバス>に連れ去られる前に
5人の女性に別れを告げてまわるストーリーを、1話完結型で
5回に分けて描いているのだが、これが、回を追うごとにどんどん面白くなっていくのだ。
巻末のインタビューで著者は自身の作品の面白さを、こう分析していた。
伊坂作品の、ちょっと変わったキャラクターがいてそれに振り回される人がいて、登場人物達のやりとりが楽しくて、いろんなところに張ってある伏線が少しずつ繋がっていき、要所要所で「ああ、そうなんだ」とはっとする感じ。
自身の作品をこれほどまでに客観的に見れているなんて!
世間が求める伊坂幸太郎作品を的確に知りつつ、
それを書くことに楽しみを覚える。まさに生粋の作家なのだな、と感心してしまった。
そして、その伊坂イズムというべき面白さは
本書にもいかんなく発揮されている。
繭美の破壊的なキャラクター(マツコデラックスを想像された人も多いのでは?)
かと思えば純粋すぎるほどに素直な主人公の星野くんは様々な女性を(意図せず)振り回している。
星野くん(君付けで読んでしまいたくなるようなキャラなのだ)の人柄も、
回を追うごとにどんどん魅力的に映ってくる。
その素直さゆえに、ついつい5股の関係に陥ってしまったことも、致し方ないように思えてくる。
しかし、この作品はどうだろう。上記の伊坂イズムは随所に見られつつも、
本質的なテーマがなかなか見当たらない。
けれど、存在しないわけではない。見つけにくいだけなのだ。
もしかしたら、ラストから、読者一人一人の物語が始まることが、テーマなのかもしれない。
この小説が(ゆうびん小説とあるとおり)文字通り読者への手紙なのだとしたら、
この小説を発端に、読者ひとりひとりの何らかの物語が始まっていく。
例えば、繭美が主人公を助け出す、という物語が読者ひとりひとりにあってもいい。
「別れたくないからね。別れても、別れないんだから」
石原さとみに言われたい!!
暴力の正体とは?【書評】限りなく透明に近いブルー(村上龍)
概要(あらすじ)
米軍基地の町・福生のハウスには、音楽に彩られながらドラッグとセックスと嬌声が満ちている。そんな退廃の日比の向こうには、空虚さを超えた希望がきらめくー。
感想
暴力の正体
刺さった一文
これまでずっと、いつだって、僕はこの白っぽい起伏に包まれていたのだ。中略そして自分でこのなだらかな白い起伏を映してみたと思った。僕自身に映った優しい起伏を他の人々にも見せたいと思った。
【書評】透明ポーラーベア 伊坂幸太郎
繋がってるね、とは、mixiの昔のCMの印象的なセリフで、
感想
まとめ
刺さった一文
その演奏が映画のクライマックスさながらに響いて、周囲を全部包み込んだ。そのせいか、花束を渡した冨樫さんと、花束をもらった芽衣子さんが無言で身体を寄せ合う光景が、とても美しい場面に見え、僕は思わず息を飲む。
あらすじ
シロクマは姉が好きだった動物だ。3年前、カナダで行方不明になった姉が。僕は偶然、動物園で姉の最後の恋人に出会った。「姉の彼氏」群の中では一番好感を抱いていた人だ。僕たちはなんとなく流れでダブルデ-トすることになるが…。話題の恋愛アンソロジー『I LOVE YOU』収録の珠玉短編、伊坂幸太郎が紡ぎ出す人と人との繋がりの奇跡。
【妄想】早起き
起きようと頑張るのですが、うんうんと唸るだけでアマレスラーもびっくりするくらい布団の上で寝返りをうって終わるだけ。
甘えちゃうんですね、朝に。というより、自分に。
どうやったら早く起きられるのでしょうか。
以前、とあるお坊さんに質問したときに、「すごくシンプルですよ、早く寝れば良いんです」と言われました。で、早く寝てみたんですけど、早く起きられないんですね、これが。
本当に不思議で。
7時間睡眠で足りると考えれば、1時に寝れば8時に起きて、11時に寝れば6時に起きられるはずなんですけど。
不思議です。起きられない。
もう、全然シンプルじゃないんですよ。
人生はSimpleじゃないんです。
誰だ、シンプルに生きようとか言っているのは。
もう、不思議でいっぱい。
そりゃあ、人生がシンプルだったら良いなぁとは思うんですけど、
みんながみんなシンプルに生きていたらつまんなくないですか。
ゲームだって多少難しいから攻略のしがいがあるのであって。シンプルだったら面白みがなくて大半が途中放棄ですよ。人生の途中放棄はつらいですよ。つまり自殺ですからね。
こういう、理屈で説明できない不思議な出来事が人生を面白くしてくれのではないでしょうか。
何の話だっけ。
早起きがしたいです。哀川翔には勝てなくてもいいけど、太陽には勝ちたい。
なんで早く起きたいかというと、まあ、某スターバックスのCEOが早起きだったりとか、
21世紀の歴史は朝に作られるとか、某ナイキのCEOは早起きだとか、全部同じ記事なのですが。
http://lrandcom.com/why_starbucks_ceo_get_up_four_thirty_in_the_moring
啓発系に感化されやすいんです。
あと、強いて言うなら、先日実家に帰ったら父が超絶早起きになっていたとかですかね。
5時45分に起きているんですよ。お前はなんのCEOやねんと。
僕は実家では床に布団を敷いて寝るスタイルなのですが、朝になると愛犬がカツカツとやってきて
ぺろぺろと寝ている僕の顔をぺろぺろするんです。ぺろんちょって。おま、やめろよーって感じで、もう超可愛いの!もう石原さとみなんていらない!
僕はそんなスタイルで愛犬に起こされるのですが親父はむしろ愛犬より先に起きています。
動物より起きるの早いの。もはや猿。しかも土曜日も日曜日も。
で、僕が東京に帰る日に、祖母含めて両親とお茶をしたのです。
コメダコーヒーで。そこは残念ながらスターバックスでなく。
嫌な汗が止まらなかったもん。ぶっ込みすぎでしょーと思いながらも
なんでも認知症の進行を遅らせるには散歩と会話が良いそうで。
それで、父は毎週末、朝早くに起きて祖母と二人で公園まで散歩し、喫茶店で朝食を食べるのだとか。
それを聞いた瞬間、いろいろな感情が沸き上がってきて、親子愛だとか、普段そっけない父が生活習慣を変えてまで行動する姿だとか、父が押す玄関のチャイムを待つ祖母だとか、その祖母は父の行動をどのように感じているのだとか、そういった二人の積み重ねももしかしたら病のせいで忘れられてしまうのではないかとか、父に対しても祖母に対しても色々な感情が破裂する気泡みたいにぷつぷつと沸き上がってきて、つまり、祖母にとっての石原さとみは父になるわけなんだな、と沸き上がる感情がまとまった瞬間、なんだか二人を羨ましく思いました。
【書評】男ともだち 千早 茜
彼女の日常に七年ぶりに舞い戻ってきた、大学時代の先輩ハセオ。互いに恋人がいても、なぜかいつも一緒にいた相手。理解しあう必要もないほどしっくりくる、男ともだち。
男ともだちは恋人じゃない。彼らには親密に付きあっている女たちがいるだろう。でもひょっとすると、男ともだちは女にとって、恋人よりずっとずっと大切な相手なのではないか。いつまでも変わらずに、ふとした拍子に現れては予想もつかない形で助けてくれる――。
29歳、そして30歳。
仕事と男と友情の、熱くてほろ苦い日常を描いた傑作長編小説。
本当に大切な人だからこそ、セックスをしないという考えが僕の中にはある。
本当に大切な人、好きでたまらない人とはセックスをしたいとはあまり考えない。
SEXをする男女の関係なんて色褪せて見えてしまう。
だって終わりが見えるし、すぐに変質していくし、
打算的な感じがする。