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読書感想文/マーケティング/エッセイなど。基本的にフィクションです。

マーケティングと共に フィリップ・コトラー自伝

『マーケティングと共に フィリップ・コトラー自伝』を読んだ。
帯に記された謳い文句にふさわしい内容だと思う。

 

◆「コトラーの原点に迫る最高の教科書」
原点とはつまり、著者の生い立ちや思想の転換期を意味するが、著者本人の言葉で自身の家族、青年時代、シカゴ大学からMITへの移籍、奥様への誘い文句などが綴られている。

もともとは経済学を専攻していたコトラーが、どのような経緯でマーケティング分野へ移ったのかも興味深い。
コトラーのマーケティング観が掘り下げられていることこそが、本書が「原点」に迫っていると言える大きなポイントではないだろうか。マーケティングをサイエンスと捉え、狭義にとらえられがちなこの分野の対象拡大を図った、コトラーのマーケティング観を表す言葉がある。

"マーケティングと聞いて何を思い浮かべるだろうか。中略。一言でいうのは難しいが、企業業績の向上と顧客の価値・満足を創造することで人々の生活の改善を目指す実践的な学問であると思っている"

 

 

◆マーケティングという学問への強い興味
本書から得られたものをあげるとするなら、マーケティングへの強い知的好奇心だろう。商業的なイメージの強いマーケティングだが、本書を辿れば経済学から派生した学問であることがわかる。
一般的にはプロモーションの側面がフォーカスされがちだが、生産者から卸売会社を経て、小売業に至るまでに価格が実際にどのように決定され、企業の広告や販売促進などで需要曲線がどのようにシフトするかを分析する応用経済学のひとつだ。

マーケティングが専門書に登場するのは1910年頃。当時の経済学者が商品の売買の成立が需要と曲線と価格だけで決まるのではなく、流通機構や広告宣伝などの経済活動を見逃してきたことに気づき、問題意識が芽生えた。マーケティングの歴史はここから始まったという。この説明は、経済学を専攻していた僕にとって腹落ちするものだった。

R→STP→4P→I→Cといったマーケティングプロセスの一端も本書から得られるエッセンスだ。
「R」市場のリサーチ、「STP」異なる顧客層を区別するセグメンテーション、どの顧客層をマーケティングのターゲットとするか決定するターゲティング、選定したターゲット市場におけるポジショニング。選択した市場を攻略するための「4つのP」計画の策定。それを「I」インプリメントし、最後に4Pを改善するためのフィードバックを集める「C」コントロールの段階がある。

しかし何より、コトラーという人間への尊敬こそが本書から得られる一番の気付きではないだろうか。貧困の撲滅を決意するなど、社会問題に対する強い姿勢に圧倒されると思いきや、日本の骨董品集めのコレクション趣味に親近感を抱き、はたまた文化的教養を求める生活に刺激を受ける。ジェットコースターのように彼の人格に心が振り回される。

 

◆読感
マーケティングという学問をもっと学びたいと思わせてくれた。
今日のマーケティング部門には限られた機能しか残されていないというのが著者の見解だ。コミュニケーション、価格決定、ブランディングと差異化、消費者行動。私見を述べさせてもらうなら、実態はさらに狭いように思う。
本来であれば新製品開発、イノベーション、メディア、チャネル、市場戦略、サービス、データマイニングなどは、マーケティングの責任者が見るべきとも著者は言う。結局のところ、顧客を理解し、顧客が何を望み、どこへ向かっているかを把握することを考えると、誰かがマーケティングのあらゆる活動を統括する必要がある。
僕はデジタルという小さな領域でしかマーケティングの経験を積んでいない。マーケティングによって人々の生活の改善を目指せるなら、深く学ぶ価値のある、エキサイティングな分野だと思う。